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第二章:伝説は絶望より来たる 2
一方その頃、レイガ達は歴史の改変を行うために別の世界に飛んでいた。現在居るのは、とある古城の謁見の間。いつ作られたかも分からぬこの城の中で、彼等はある男と対峙していた。

二メートルはあろうかという長身に引き締められた肉体。ウェーブがかかった長い金髪に、金糸などで作られた豪奢なマント、腕と足には金環がはめられ、自身の周囲には白と黒の球体が交差するように浮遊していた。

この男性こそ、ファンタジアの世界で魔王とも呼ばれた人物、ダオスだった。

「何者だ? お前達…」
「あんたがダオスか。まずは俺達の話を聞いて貰いたい」

レイガの要求に眉をひそめるダオス。彼の方に手を向けると、手の平に光が集束する。次の瞬間、それは光線となって襲いかかる。

光線がレイガに直撃する前に、シノと天海そしてもう一人の少女が立ちはだかり、巨大な障壁を張ってそれを弾き飛ばす。弾き飛ばされた光線は天井に直撃し、瓦礫がそこかしこに落下する。

「いきなり何をする!?」
「私と取引をするだと? 人間風情が、貴様等も魔科学を使ってマナを枯渇させる心算だろう。失せろ」
「お前、話を!!」
「止せ、天海」

今にも刀を抜いて斬りかかろうとする天海を、レイガは彼の前に手を出して止める。ここで短気を起こしてしまえば、交渉すら出来なくなってしまう。だからこそ、こちらは下手に出なくてはならない。

先ほどの光線で暴れ回る心臓を落ち着けるために一旦深呼吸をして、レイガは話を続ける。

「俺達はあんたと協力して魔科学を破壊し、世界のマナを充足させる。あんたが求めてる大いなる実りの作り方を、俺は知ってるからな」
「…どういう事だ?」
「こういう事だよ」

レイガは懐から小さな水晶玉を取り出す。それを握りつぶすと、空中にとある映像が映し出された。

それは、ダオスが倒れた後六人の時空戦士達によってユグドラシルに障壁が張られ、大いなる実りが作り出されるという映像だった。

「私が死んだ後…、大いなる実りが生み出されるというのか。ウィノナ、彼女が言ったことは本当だったのか…。私は死ぬと…」
「あんたが求めてるのは大いなる実りだけなんだろう? だったら協力しな。ミッドガルズを消し飛ばして、二度と魔科学が使われないようにする。そうすれば、いずれマナが充足し、大いなる実りが生まれる。あんたの望みはこれで叶えられるし、俺達は俺達でこの世界の歴史を変えられる。どうだ?」

不敵に笑って条件を提示するレイガ。それを聞き、ダオスは一度瞑目する。その後、目を開きこくりと頷いた。

「良いだろう。だが、忘れるな。所詮お前達は人間だ。使えぬのであれば、遠慮なく切り捨てる」
「構わねぇよ。俺達が駄目だったら、あんたがやればいい。と、もう一つ。あんたの力を利用して世界を魔界に変えようとしてる魔族が三人居るんだ。もし覚えてたら、そいつ等も抹殺しておいてくれ。魔科学が崩壊した後、確実に何かやるだろうからな」




夜が明けて、朝日が神殿の壁の隙間から差し込んできた頃。全員はまだ夢の中に居た。

布団の中で全員が心地よい眠りに身を委ねているところへ、頭の中にマーテルの声が響き渡る。

「皆さん、起きてください。改変が行われたようです」

その声を聞き、全員が目を覚ました。まだ半分夢の中という状態の者も居るが、目をこすりながら服を着て大広間へと移動を始めた。

大広間へとやってきた悠汰達を見て、マーテル達はにっこりと微笑みながら会釈をする。そしてすぐに表情は厳かなものへと変わる。

「また改変が行われたようです。今からあなた方を転送いたしますが、よろしいですか?」
「その前にちょっと気になっていたんだが、こちらから先回りする。と言うことは出来ないのか?」

ふと思い立った疑問をアレスは口に出した。その問いに、ノルンは苦く笑う。

「先回りできたら楽なのですが、私達が追えるのは歴史が改変されたという気配だけなのです。だから、先回りして止める、と言うことは不可能なのです」
「分かった、ありがとう。済まないね、こんな事を聞いて」
「構いません。では、よろしいですね?」
「ああ、始めてくれ」

悠汰が答えると同時に足下に巨大な魔法陣が描かれる。白く輝く魔法陣は徐々に緑色に変色していく。

「レイガの気持ちを確かめる…。どうして、そんなことをするの…!」

翠那が呟き終わると同時に全員の視界が真っ白に塗りつぶされる。次の瞬間、以前と同じように地面に立っている感覚が消え、上下も分からないような浮遊感が襲いかかる。


白塗りだった視界に色が戻り、地面に立っている感覚も戻る。

悠汰達がやってきたのは、のどかな田舎町だった。だが、ここがどの世界なのか分からず、近くを通った町の人に声をかけた。

「あの、済みません。ここは何という町ですか?」
「あんた達旅の人かい? ここはトーティスの町だよ」
「トーティスの町…? 済みません、今何年ですか?」
「んー? 変な人だねぇ…。今はアセリア歴4354年だよ」
「ありがとうございます」

アセリア歴4354年。本来ならばこの時代のトーティスの村は、ミゲールの町として改名されているはずだが、何故かこの世界ではトーティスの町と呼ぶようだ。

何かが可笑しい、そう思った一行は町を歩き回る。町の道具屋に入ると、商品棚の中に一冊の古い本が置いてあった。よくよく見てみると、それは古い歴史書のようだ。

「歴史書…?」
「なんだお客さん。これが欲しいのかい?」

歴史書をじっと見ていた悠汰達に道具屋の店主が声をかける。身長自体は低いが、筋骨隆々といった感じの男性で、いかにも頑固そうな人物だった。

「いえ、欲しいってワケじゃないんですけど、読ませていただいたら…」
「駄目だね。一応売り物なんだ。そう易々と読ませるわけにはいかないよ」

道具屋の店主はそう言って腕を組んで悠汰達を睨み付ける。現状、この世界の金を一切持っていない一行にはこの本が凄まじく高価なものに見えていた。

どうしたものかと悩んでいると、翠那が店主の下へと近付く。彼女の横顔は余裕の笑みが浮かんでいる。

「ねぇ、おじさん。ちょっとだけで良いの。読ませてくれない?」
「駄目だって言ってるだろう、お嬢ちゃん。これは売り物…」
「お願い…」

翠那がそう言った瞬間、彼女の目の色が黒から薄い紅色へと変化する。それを覗き込んだ店主の目つきがどんどんぼんやりとしてくる。

「おじさん、読ませてくれるよね?」
「ああ…、良いよ…。ただしきちんと棚に返してくれよ…」

目の焦点が合っていない状態で対応する店主。まるで何かの催眠術にかかったようであった。

悠汰達を向いてウインクする翠那。店主の許可もおり、棚に置いてある歴史書を手に取った。彼女はそれを大事そうに抱えながら、悠汰達の元へと戻ってきた。その様子を見て、全員苦笑いを浮かべる。

「一体何をやったんですか?」
「えー、軽い催眠術をかけただけだよ。葉っぱをお金に偽造するわけにもいかないし」
「な、なるほど…」

ティアラの質問を悪戯っぽく笑いながら答える翠那。尻尾を楽しげに振りながら、彼女は歴史書を開いた。

開いたページに書かれているのは、近年におけるアセリアの動き。この辺りは特に変わった部分はなかった。

さらに読み進めていくと、とあるページに目が止まった。そのページにはアセリア歴4202年の地点でミッドガルはダオスの軍勢と五人の男女に滅ぼされたという史実だった。

記されている五人の男女とは、間違いなくレイガ達のことだろう。だが、デスティニーの世界では三人しか居なかったはずである。

「五人…。みんな、どう思う?」
「協力者が居る…と言うことでしょうか?」
「もしかしたら、私達みたいに新しい仲間がいるのかも知れませんよ?」
「レイガ達に会ってみないと分かんないよ、そんなこと!」

全員が考えているなか、焦れたように叫ぶ翠那。何かに焦っているように彼女はそわそわしていた。

翠那とレイガの関係を知っているアレスは、彼女が焦る気持ちは痛いほどに分かっていた。大丈夫だ、そう言わんばかりに彼女の頭に手を置く。

「お兄ちゃん…」
「慌てる必要はない。手がかりは見つかったんだ。レイガ達が改変を行った時代にいけば分かる。そうだろう?」
「うん…」

不安そうな顔をする翠那をなだめながら、アレスは首飾りに目をやる。それはすでに前回の時と同じように緑色の光を湛えていた。

すでに転送の準備が完了しているのか、他の全員の首飾りも光を放っている。

「とりあえず移動しよう。彼等の真意を確かめる」
「そうですね。レイガさんに会わないことには何も分かりませんしね」
「本当に、あれはレイガさんらしくないです…」

ティアラもアリアもこくりと頷いた。次の瞬間、全員の足下に巨大な魔法陣が描き出される。白から緑に色が変わると、最初の世界移動と同じように視界が徐々に白く塗りつぶされる。

全員の姿が消えると、先ほどまで翠那の手元にあった歴史書が残り、床に落ちる。同時に彼女が居なくなったことにより、店主にかかっていた催眠術が解ける。

「む、歴史書がどうしてこんな所に…。さっきまで居たお客も居なくなってるし…」

店主は落ちている歴史書を手に取ると開かれているページに目を向ける。そこに書かれているのは…。



アセリア歴4202年。クレス達が伝説の魔術、インディグネイションを手に入れるためにトリニクス・D・モリスンの時空転移法術によってやってきた時代である。

悠汰達一行がやってきたのはミッドガルズである。すでにダオス軍とミッドガルズ軍の戦争が始まり、数年続いたこの戦いのことをヴァルハラ戦役と呼んだ。

そのミッドガルズの広場。これからどうしようかと話し合おうとした刹那、彼等を出迎えるかのように巨大な震動が鳴り響く。その震動はまるで大地が悶え苦しんでいるかのようなものだった。

「な、何だ!? これは!?」
「ねぇ、あれ見て!!」

翠那が指さした先。そこはミッドガルズ城の主塔だった。

鈍い音を響かせながら主塔の頂上部から現れたのは、黄金の鏡を抱えた一体の女神像。頂上部のドームの中で、それは何かを探すかのように動く。

これこそミッドガルズが作り出した魔科学兵器、魔導砲の姿であった。

やがて像と鏡が狙いを定めたかのように北東方面、ダオス城のあるヴァルハラ平原に向く。

徐々に鏡に光が集束していく。それは徐々に膨れあがり、周囲を白く照らす。そして臨界点にまで達したとき、耳を圧する爆音と共に巨大な光の槍が放たれた。

レイガ達との戦闘とは比べものにならない規模のその攻撃に、全員は唖然とした顔でその様子を見ていた。

「これが…魔導砲…!」
「あんな物が撃ち込まれていたというのか…!」

全員が呆然としている中、ティアラはある異変に気付いた。周囲のマナが急速に失われているのだ。それも、魔術を行使するマナの量よりも膨大な量のマナが一瞬で。

そのマナの消費により植物は一瞬で枯れ果てて無惨な姿になり、石は砂になっていく。自分たちのマナには影響がないものの、この光景は異様な物だった。
16/04/14 00:12更新 / レイガ
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