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第一章:交差する運命 後編
悠汰を押しのけてアリアが猛然とレイガ達に襲いかかる。力のこもったトンファーの先が、振り抜かれる。

アリアのトンファーが確かに命中した。だが、それから拳に伝わるのは鋼のような感覚。そして、鉄を思い切り打ち抜くような甲高い音だった。

「レイガ兄ちゃんの邪魔はさせない。俺はそう言ったはずだよ、アリアさん」

アリアの一撃を阻んでいたのは、天海の鞘から半ばまで引き抜かれた刀だった。

自身の攻撃を止められたアリアは、さらに押し込もうとするがまるで巨大な岩を押すかのように、天海は全く動く気配を見せなかった。次の瞬間、彼女の腹部に天海の前蹴りが突き刺さる。

「うっ…!?」

腹部から走る強烈な激痛に、アリアは苦悶の声を漏らす。

彼女の体勢が崩れた隙に、天海は一気に刀を引き抜いた。その刃を返して峰を向け、上段に構えて思い切り前へと踏み込む。

「剛断・地!!」

気迫と共に天海は刀を振り下ろした。彼が放つその一撃をアリアは両腕を交差してトンファーでガードするが、彼のその膂力は凄まじく、アリアはすぐに大地に膝をついてしまう。それどころか、交差している腕がどんどん下がってしまう。

それほどまでに、天海が振り下ろした一撃は重いものだった。

「よし天海、アリアちゃんをそこで釘付けにしててくれ。シノには絶対に近づけさせるなよ?」
「了解!」

天海の返答を聞いて、レイガは疾風のように駆け出す。その両手には逆手に持った短剣が握られている。

策も何もない突進と思いどっしりと構える悠汰。だが、それが甘かった。あろう事か、レイガが二人に分身したのだ。堪らず悠汰は彼に向かって右の槍を突き出すが、それは分身だった。

分身の彼が悠汰を擦り抜けると、本体のレイガが襲いかかる。すでに懐に潜り込まれているため、もう片方の槍で反撃することもかなわない。

「夢幻斬!」

分身と本体による挟み込むような一撃。あまりにトリッキーな攻撃に、悠汰は反撃の術すらなかった。

切り裂かれた場所から、血がしたたり落ちる。その間にも、レイガの口から呻くような、呟くような声が漏れる。それに反応するように、彼の周囲から紫色の光が飛び散る。

「こいつもプレゼントだ! シャドウエッジ!」

レイガのかけ声と共に、悠汰の足下から無数の闇の刃が襲いかかる。辛うじて悠汰はこれを避けるが、その内の一本が槍を跳ね飛ばす。跳ね飛ばされたそれは、アレスに向かって飛んでいった。

こちらに飛んでくる槍をアレスは飛び上がって掴むと、槍投げのように持ち、渾身の力でそれを投擲する。放たれた槍は、凄まじい速度でレイガに向かって襲いかかる。

「闇よ、我が手に集いて漆黒の槍と化せ…!」

自身に飛んでくる槍を目視しつつ、レイガは詠唱を開始する。掲げた右手に晶力が集まり、徐々に槍状に形を変える。

「デモンズランス!」

術が完成し、レイガの右手には漆黒の槍が生成される。彼はそれを掴むことなく、そのまま右手を振るって射出する。その速度は、アレスが投げたそれよりも遥かに早く空を駆ける。

アレスが投擲した槍と、レイガが投擲した槍が正面衝突し、中空で小さな爆発を巻き起こす。

レイガが作り出した槍はそのまま消失するが、アレスが投擲した槍は煙を纏いながらあらぬ方向へと回転しながら飛び、地面へと突き刺さった。

「術の詠唱が遅かったら俺が串刺しになるところだったな。やるじゃねぇか、アレス」
「褒めてくれて嬉しいね。だが、何があっても君を止めなければならないようだ…!」

アレスは構えを取りながら、じりじりとレイガの方へと距離を詰める。自身より遥かに高速で動き回る彼に対し、アレスは頭の中で様々な対応を考えていた。

ふとアレスは、レイガの背後に悠汰が居ることに気付く。彼の視線に気付いたのか、悠汰もゆっくりとレイガの背後で槍を構えていた。

この状況ならば挟撃が出来るだろう。レイガも、今自分の背後に悠汰が居るとは気付いていない。

「いくぞっ、悠汰あっ!!」
「おう!!」
「何ッ!?」

アレスの叫びと共に、レイガの背後にいた悠汰が襲いかかってくる。槍が一本しか無い分、両手で突きを出せるために威力は上がる。当てることが出来たなら、そのままアレスの攻撃が入り、勝利に持ち込むことが出来る。

だがレイガは、足に力を入れると同時にアレスに向かって突進する。次の瞬間、レイガの身体がぶれた。

訳も分からないままアレスは拳を悠汰は槍をレイガに向けて振り抜く。拳と槍が、レイガに突き刺さった。かのように見えた。

「悪いが、俺はそこじゃあないんだ」
「馬鹿な…!?」

レイガの後ろから襲いかかっていた悠汰は、彼の姿がすでにアレスの背後にいることに驚きを隠せなかった。

一方のアレスは、がっくりと膝をついた。その脇腹には、深い裂傷が刻み込まれ血があふれていた。

アレス達が攻撃したのはレイガの幻影だったのだ。そして、アレスとすれ違い様に彼はその短剣でアレスの脇腹を深々と切り裂いていたのだ。

「幻影刃。これで戦うのはもう無理だろう。その傷じゃ、な」
「アレスさんっ!!」

未だ天海の刀に押さえつけられ、身動きの取れないアリアは首だけを向けてアレスを心配する。だが、その間にも押しつぶさんとばかりにさらに膂力が増す彼の刀が、アリアの身動きを止める。

一瞬でも気を抜けば、そのまま押し負けてしまいそうになる。

「さぁてと、チェックメイトだ。じゃあな…!!」
「くっ…!! ううう…!!」

アレス達に短剣を向け、とどめを刺そうとするレイガ。だが、シノから漏れる苦鳴が彼の動きを止める。

苦しそうにその身体を抱きしめるシノ。それに反応するように、徐々に世界の色が色を取り戻したり、モノクロになったりを繰り返す。

「まずい、マナが切れ始めたのか!」
「シノさん!!」

天海はアリアを押さえつけていた刀を引き、身を翻してシノの元へと駆け寄る。

天海の拘束から解き放たれたアリアは逃がさないとばかりに彼に殴りかかる。もう少しで、拳が届く。

「黒鷹旋!!」

アリアのトンファー目がけてレイガは短剣を回転させながら投げる。高速回転しながら飛来する短剣を彼女はトンファーで防ぐが、その隙にレイガと天海はシノの前に仁王立ちになっていた。

シノはすでに顔面蒼白で、荒い呼吸をしていた。そんな彼女を、レイガは少しだけ迷いを見せたが、すぐに自分の背中に背負った。その間にも、誰にも触れさせないとばかりに天海が殺気を飛ばしながら、アリアの前に立ちふさがる。

「今日の所はお預けだ。シノがこんな風になっちまったからな。だが、覚えておけ。次、俺達に向かってくるのなら、今度は容赦なく叩き潰す。良いな」
「ま、待てっ!!」

悠汰が叫ぶよりも早くレイガ達はこの場から姿を消した。彼等が消えると、モノクロに変化していた世界が元通りの色に戻る。だが、同時に先ほどまで停止していた海水も動きだし、濁流となって全てを呑み込まんとばかりに凄まじい勢いで流れ込んできた。

自分たちも押し流される、そう覚悟したとき、首飾りから光が放たれる。次の瞬間、悠汰達全員の身体が光に包まれた。転送が開始されたのだ。

徐々に白く塗りつぶされる視界の中、アリアは目の前で濁流に呑み込まれ、流されていくリオンの姿を見た。

「リオ…!!」

アリアがリオンの名を呼ぶ前に、その視界は白く塗りつぶされた。
16/04/14 00:09更新 / レイガ
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■作者メッセージ
技紹介。
烈駆槍 大きく踏み込んで槍を突き出す。
風牙槍 槍を振り抜いて敵を大きく吹き飛ばす。
烈破墜掌 敵を掴み上げて地面に叩き付けると同時に気を炸裂させる。
巻空旋 相手に触れると同時に回転させながら空中に放り投げる。
幻竜拳 一瞬で間合いを詰めて右ストレートを放つ。
ピコハン 相手の頭上にピコハンを作り出して落下させる。
幻影刃 己の幻影を作り出し、一瞬で距離を詰めて相手を切り裂く。
夢幻斬 分身を作り出して、挟み込むようにして敵を切り裂く。
黒鷹旋 短剣を高速回転させながら投げつける。投げた短剣はしばらく飛んだ後戻る。
シャドウエッジ 対象の足下から闇の刃を作り出す。
デモンズランス 飛び上がって闇の槍を相手目がけて投擲する。なお、飛び上がらずに撃つことも可能。
剛断・地 大地をえぐるほどの強烈な振り下ろしの一撃を放つ。

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