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第三章:永遠の悲劇 4
「くっ、火球よ! ファイアボール!!」

先程の矢を撃ち落とした時と同じように火炎弾を放つ。襲い来る光の矢と火炎弾がぶつかり合い、爆煙が立ち込める。

撃ち落としたかのように見えたがしかし、爆煙を貫いて光の矢は、その軌道を一切変えずに翠那に襲い掛かる。

「無駄。屠龍がその程度の魔法じゃ止められない」
「土壁!」

妖力を使って翠那は地面をめくり上げ、即席の防壁を作り出す。それと並行して、術の詠唱を開始する。

四つの光の矢は防壁に突き刺さり、停止する。だが、巨大な光の矢は防壁を貫いて突き進む。

術の完成が間に合わず、翠那に巨大な光の矢が直撃し、彼女はその場に倒れ込んだ。

「翠ちゃんっ!!」

叫びながら、ルミナは倒れこんでいる翠那のそばに近寄る。彼女の体は凄まじい衝撃によって、ところどころ血を流してはいるが、貫かれた形跡はなかった。

どうやら、矢本体はすでに消滅しており、光のみが彼女にぶつかったようだ。

「美幸、どうしてここまでするんだ!」
「ごめん、こうするしかなかった。下手に攻撃すると、無駄な怪我をするから」
「まあまあ、そういうこと。さて、あっちはどうなってるかな」

翠那の戦闘を見ていたエンジュは、アレス達に視線を向ける。その口元には歪んだ笑みが浮かんでいた。

一方のアレスは、ルースに飛び掛かられ、そのままその巨体に組み敷かれる。彼の口からは、炎がちらついていた。

「ぬううう……!!」
「燃え尽きるがよい!」

ルースが口を開き、炎が吐き出されるその刹那、アレスの頭突きが彼の鼻に直撃する。

鼻から来る凄まじい激痛に、ルースの頭が上を向く。その隙を見逃さず、アレスは彼の腹部に全力の蹴り上げを叩きこんで引きはがす。

ルースの拘束から逃れたアレスは、彼の浮き上がった両前足を掴むと、立ち上がると同時に背中から地面に叩きつけた。その衝撃で、わずかながら地面が揺れる。

「ギャウッ!?」
「もらったぁ!!」

ルースのがら空きになった腹部めがけて、アレスの渾身の拳が襲い掛かる。だが、そこへエンジュの銃弾がそれを弾く。
鋭い衝撃が銃弾を受けた拳に走り、アレスは指先が痺れるような感覚に支配された。

「ぐぅっ!?」
「いやいや、それで終わりはつまらないでしょう。もうちょっと楽しもうぜ、この戦いをさぁ!!」

そう叫びながら、エンジュは双銃をアレスに向け、銃弾を乱射する。放たれた銃弾は彼だけではなく、彼の近くにいるルースにまでも襲い掛かる。

アレスの体に無数の銃弾が着弾し、そこから痛みが突き抜ける。苦鳴を漏らしそうになるが、それを噛み殺し、ルースへと肉薄した。

激痛にも負けることのないアレスの闘志に、ルースは感嘆の笑みを浮かべる。すぐにそれを戦意に変え、大きく息を吸い込む。

「ゴアアアアアアアアアア!!!」

咆哮とともに吐き出された紅蓮の怒涛がアレスめがけて襲いかかる。

迫りくる紅蓮の怒涛を、アレスは木から落ちる葉の如き体捌きでそれを避けながらルースの側面へと回る。それは、飛葉翻歩の動きだった。

「砕け散れ、閃気砕拳!!」

気を込めたアレスの拳が、ルースの脇腹に突き刺さる。鈍い音が辺りに響き渡る。その一撃はまさに会心の当たりだった。

だが、ルースはすぐに薙ぎ払うように炎の息を吐き、一旦アレスと距離を取る。

先ほどの一撃がただの一撃ではないと分かっているが、ルースの内心ではただの拳打かと侮っていた。

「それで終わりか? その程度の一撃で、私は倒せんぞ」
「ああ、その程度なら、な」
「何…?」

アレスの意味深な言葉に、ルースは怪訝そうな表情を浮かべる。だが、すぐに彼の言葉ははったりだと断じ、再び飛び掛かろうとするが、

「ぐごっ!?」

ルースの体内で、何かが弾けた。それは先程アレスに打ち込まれた気だった。

気の炸裂によって、ルースの体内は多大なダメージを負うこととなった。その口からは血が滴り落ちている。

侮っていた。この言葉に尽きる。アレスを格下に見ていたからこそ受けたこの打撃、ルースは自身の慢心の戒めにした。

「ぐ、く…! これは、認識を改めるべきだな…。私にも、慢心があったということか」
「慢心させる暇など与えない。俺はお前たちに勝つ。それだけだからな」

じりじりと、アレスとルースの間に緊迫した空気が流れる。互いの闘気によるものなのか、彼らの周囲が陽炎のように歪む。

彼らの様子を遠目で見るエンジュ。邪魔をすれば、後で何があるか分からないなと内心で苦笑いしつつ、視線をルミナに戻す。刹那、自分の眼前を彼女の鋭い蹴りが襲い掛かる。

「烈蹴脚!」
「うおっと!? このっ!!」

ルミナの蹴りの鋭さに多少面喰いつつも、エンジュは銃を乱射する。だが、その攻撃もすでに彼女に見切られていた。銃弾の軌道を読んで避け、エンジュの元へと接近してくる。

「はあああああああ!!」
「くっ、早いよルミナちゃん。エッジバレット!!」

さらに襲い掛かる無数の蹴りを、エンジュは銃口に作り出した刃でそれを捌いていく。だが、それでも彼女の蹴りの回転数が上がり、捌ききれなくなってくる。

「牙連脚ぅっ!!」
「まずっ…!?」

太腿、脇腹、首筋を狙った高速の三連撃がエンジュに襲い掛かるが、その連撃を避けながら彼は唐突に銃口の刃を消す。それどころか、ルミナの腹部に向けて銃口を向けた。

「とでも、言うと思ったのかい。ゼロバレット!」

銃弾を打ち出す、乾いた音が何度も響く。近距離で銃弾を受けたルミナはエンジュと少し離れた場所に倒れこむ。

ルミナの腹部には無数の銃弾の形にへこんだ痕が残っており、彼女の口元から血が流れていた。

「いやはや、ここまでさせるとは、ルミナちゃんもすごいな。って、どぉわっ!?」

ルミナを見下ろしていたエンジュに、巨大な火炎弾が三発降り注ぐ。着弾時にまき散らされる熱風が周囲を吹き抜けた。

術を放ったのは、倒れ込んでいたはずの翠那だった。彼女を打ち倒し、矢を向けていたはずの美幸は、叫び声をあげながらあらぬ方向へと矢を放ち続けている。

「え、いやいや? なにこれ? どういうこと?」
「少し幻惑させてもらっただけ。とりあえず、ぶっ飛ばして話を聞かせてもらうよ。エンジュ。こんなに痛い思いさせてくれちゃって、絶対許さない!」
「いやいや、一応戦闘だからね。と言うか、そんなに聞きたいかー。でも」

怒りの視線を向けている翠那に対し、エンジュは対峙して一番の笑顔を見せる。

「だぁめ☆ 俺も俺で、話せないこともあるからねぇ!!」

そう言って翠那に向かって銃弾を連射する。放たれた銃弾は、彼女めがけて襲い掛かる。

だが、エンジュが放った銃弾は翠那の目の前に現れた土壁によって、全て防がれる。銃弾を防ぎ終わると、即座に元の地面へと戻った。

「嘘ん!?」
「蒼空を駆けよ! サンダーブレード!」

翠那の術が発動。空から無数の雷撃が走り、エンジュに直撃する。その衝撃で彼の体が大きく跳ねる。

雷撃を受け、膝をつきそうになるエンジュ。その間にも、銃口には強い光が集まっていた。

「チャージバレット!!」

強烈な光を放ちながら飛来する銃弾を、翠那は再び土壁を作り出して防ごうとするが、それを貫通。翠那の体に直撃し、彼女も大きく吹き飛ばされる。

未だ震える膝を叱咤しながら、エンジュは立位を保つ。そして、唐突に銃をホルスターに収める。

「ねぇ、そろそろ止めにしないかい?」

エンジュはいきなりそう呟いた。その場に居る全員が一斉に顔をしかめた。あまりにも突拍子もない台詞だったがゆえに、全員呆気にとられていた。

「いや、だってさぁ? そうでしょうよ。ここまで俺達にぼこぼこにされてさぁ、まだ戦うとか可笑しいでしょ。戦ってくれた方が嬉しいけど、あまりに一方的だと、ねぇ?」

エンジュの言い様に翠那とルミナの頭の中で、何かが音を立てて切れた。地に伏せていた二人だが、彼の言った台詞が怒りとなって立ち上がる力となった。

正気に戻った美幸がとっさに矢を番えるが、それよりも早くルミナが彼女に肉薄する。

「牙連脚!」

高速の三連蹴りが、美幸を捕らえた。弓であるがゆえに反撃することすらできない。だが、ルミナは足を止めない。

「獅子、戦吼!!」

獅子の闘気を放ちながら、飛び膝蹴りを美幸に打ち込む。その強烈な一撃が美幸の意識を完全に喪失させた。

すぐに踵を返し、ルミナはエンジュへと突進する。その表情は般若を思わせるような凄まじい怒りに満ちていた。

こちらに向かって走ってくるルミナを迎撃するために、エンジュは腰の銃を再び抜き放つ。だが、すぐそばから凄まじい晶霊力が翠那に集中する気配を感じ、銃口を彼女へ向ける。

「落ちよ、紅蓮の焔。全てを灰燼と化せ! エクスプロードぉっ!!」

翠那が放った術が空から飛来する。地面に着弾した瞬間、想像を絶する爆風と灼熱の炎が周囲を焼き払う。

その爆風を受けて、エンジュは空高く打ち上げられる。そこへ同じく爆風を利用して飛び上がったルミナの脚が、彼を捕らえた。

「飛燕連脚!!」

四度の蹴りがエンジュに打ち込まれ、エンジュの体がさらに空高く打ち上げられた。

連続蹴りで吹き飛ばされたエンジュに追い打ちで、先に地面に着地したルミナが大きく跳躍。灼熱の炎を纏った飛び蹴りが叩き込まれる。

「鳳! 凰! 天駆ッ!!」

エンジュに蹴りを入れたまま、ルミナの体が急降下。そのまま地面へと叩きつけられた。鈍い音がして、地面に小規模のクレーターが出来ていた。

「いかん!」
「どこへ行くつもりだ?」

二人が打ち倒される様子を見てルースも援護に向かおうとするが、そこにアレスが立ちはだかった。

「邪魔をするなぁ!!」
「断る! お前たちはここで倒されるのだ!」
「ゴアアアアアアアア!!」

咆哮を上げながら、アレスに向かって飛び掛かるルース。その口からは灼熱の炎が放たれようとしていた。

迎え撃つアレスは、自分の拳に力を込め、思い切り振りかぶる。

「天墜打!!」

打ち下ろされた裏拳が、ルースの頭部を直撃する。衝撃で彼は口を閉じてしまい、炎が放たれることはなかった。

それだけでは止まらず、拳の連打がルースを捕らえていた。あまりの威力に後退することもかなわず、ひたすら殴られ続けていた。

「烈破、絶掌!!」

アレスの全力の拳が、ルースの腹部にめり込む。そのまま首を掴みあげ、闘気とともに地面に叩きつけた。闘気が炸裂し、彼の体が跳ねあがりそのまま動かなくなった。
16/05/01 20:46更新 / レイガ
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