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竜の章第三話:魔竜 3
握りしめているだけで、炎が桜吹雪のように刀身から吹き荒れる。
だが、同時に膨大な霊力が流れ出るような、そんな虚脱感が全身を襲っていた。

「なるほどね、この刀…。切れ味を保つために私の霊力を馬鹿食いしてるのね。そして、消化しきれない霊力をこんな風に飛び散らせている。上等よ!!」

桜花は烈火桜を思い切り振り抜き、炎の花びらが集束するように精神を集中させる。やがて、飛び散る炎は燃ゆる刀身に収束し、真紅にそれを煌めかせた。
異常な霊力の集中に気付いた魔竜は、桜花目がけて死の閃光を放つ。
迫りくる死の閃光を、桜花はそれを一刀のもとに両断する。紅く煌めく刀身は、閃光を受けてさらに輝きを強める。
脚に入るだけの力を入れ、桜花は烈火桜を脇に構えて、魔竜目がけて飛翔する。

「これが最後の一撃よ。その眼にしかと焼き付けなさい!!」

飛翔の最高点に到達した桜花は、烈火桜を大上段に構え、空を蹴って急降下する。風を受け、烈火桜はその刀身に灼熱の炎を纏う。

「絶刀一式・万象一閃!!」

桜花の霊力の上に、魔力を重ねて吸い上げた烈火桜は、その刀身を魔竜洞の外まで届かんばかりに伸ばす。
自分目がけて襲い来る、万象を両断する紅蓮の刃を目の当たりにして、魔竜は驚愕にその眼を見開く。

『お、おおおおおおおおお!?』
「つうあああああああああああああああああああぁっ!!」

裂帛の気合いとともに、桜花は渾身の力で烈火桜を振り抜いた。
一刀のもとに、魔竜の首が断ち切られる。切り落とされた首は、弧を描きながら地面へと落ちた。
首が斬り落とされ、魔竜の体は脱力したように魔竜洞の床へと倒れ伏す。桜花達は、生ける伝説に勝利したのである。

「私達の勝ちよ、魔竜」
『ぐ、おおおおおお!』

首を切り落とされてなお、魔竜は桜花に恨みの視線を向けていた。だが、その視線も弱弱しく、今にも息絶えそうなほどになっている。
桜花は烈火桜を一振りし、鞘に納めようとする。巨大化していた刀身が、どういう原理か鞘に吸い込まれ、澄んだ音を立てて納まった。
首だけで横たわる魔竜は、自身を倒した桜花に呪詛のごとき声を掛ける。

『貴様は我を倒した。それはつまり、貴様は竜をも屠る力を得たということ。いずれ貴様は知るだろう。黒鐘に代々伝わる呪いを。黒鐘がいかなる理由で我を封印したかを』
「な、何を………!」
「黙れ、下郎」

次の瞬間、氷のような朔夜の声と共に巨大な火球が魔竜の首を直撃し、跡形もなく消し飛ばしていた。
朔夜の方を振り向いた桜花は、彼女の表情を見て凍り付いていた。
殺意とも憎悪とも言えぬ異様な表情を浮かべ、歯ぎしりの音が聞こえんばかりに、歯を食いしばっていた。

「朔夜、あんた…」
「確かに、あれは呪いじゃよ。黒鐘が祀る武神が居なくなった後に残された、永遠の呪いじゃ。じゃが……」
「なんなのよ、黒鐘の呪いって…」
「貴様はまだ知らなくてよい。じゃが、魔竜の言う通りじゃ。いずれお前も知るじゃろう。お前は今、柳仙殿と同じ場所に立った。そこから先は、いずれ知る…」

そう呟いて、朔夜はその場から姿を消した。同時に残されていた首を飛ばされた魔竜の体も、跡形もなく消えていた。
生命力を限界まで絞って影術を行使したサイファーは、二人の様子を見ながら、ぐったりと洞窟の岩壁に体を預けていた。

「あー、クソ。俺の体が魔物よりの体じゃなかったら、今頃仏さんになっていたところだな。もう一歩も動けんぞ…」
「あら、生きていたのね。まあ…、今回ばかりは礼を言うわ。あんたが居なければ、私も今頃あの世に行っていただろうし」

そう言って、桜花はサイファーに自分の肩を貸す。
言うことを聞かない体に鞭を打ち、桜花によりかかることが出来たサイファーは、感動のあまり涙を流しそうになっていた。

「あ、変な気を起こそうとしたらその場で首を刎ねるからね」
「き、肝に銘じておくぜ…」

そんな冗談を飛ばしながら、二人は魔竜洞を後にした。


「ねぇ、これって本当に母上の話なの? さのん」

そして現代、現在の幸屋寺の巫女である黒鐘黒夢は手元にある書物、幸屋異聞録を読みながら、そばで浮かんでいる天空の精霊、さのんに声を掛けた。
さのんは黒夢が読んでいる幸屋異聞録を見て、何とも言えない表情を浮かべながら笑っていた。

「そーだよ。これは本当に先代の巫女のことが記されている書物さ。かつての天空の精霊がこれを記したんだから、間違いじゃないよ」

そう言ってさのんは、幸屋異聞録に記されている名前を指差した。

「サーノルフェス・エルバーン? 誰?」
「先代の天空の精霊だよ。そう、先代の、ね」

さのんの言葉には、何か複雑なものが入り混じっていた。
何とも言えない微妙な表情をしているさのんの姿に、黒夢は首をかしげていた。

「それにしても、母上の刀を蔵に探しに来たのに、こんなものが置いてあっただなんてね。まだ後二冊残ってる」

最近使っていた刀を一本折ってしまった黒夢は、新たな刀を探して蔵の中を漁っていたのだ。
そして、蔵の中に縛っておいてあったのが、この幸屋異聞録と表記されている書物だったのである。

「とりあえず、まだ続きがあるみたいだし、今日はこれを全部読むか…。それにしても気になるなぁ、玲牙って。あの竜騎士と同名って、どういうことなのよ」
「さぁてね。私には分からないよ。とりあえず、その本を読み進めていけば、分かるんじゃないかしら」

幸屋異聞録に記された先代の巫女、黒鐘桜花の姿と、聞き覚えのある名前、黒鐘玲牙。この謎を解くために、黒夢は次の巻である、幸屋異聞録天の章を開いた。







キャラクター設定

黒鐘桜花
ルミナシア外伝の主人公にして、黒鐘の巫女。
元々天涯孤独の身であったが、黒鐘柳仙に見初められ、彼の妻として生きることになる。
元々短気な性格であるが、柳仙の前ではなるべく大人しくするように努めている。
刀、槍、弓に関しては達人クラスの腕前を誇り、刀だけに関しては並び立つものが居ないとまで称されるほどの腕前。だが、柳仙には敵わないようだ。

黒鐘柳仙
現黒鐘家当主にして、かつては「魔人」の呼び名を持っていた幸屋寺の住職。
桜花の夫であり、とても温厚な男性。以前の性格は朔夜のみが知っている。
現在は魔物に受けた傷が原因で刀を振れなくなっているが、かつては天下無双とも呼ばれた剣士である。

サイファー・フェントス
桜花に好意を持つ影術師。
元々は桜花の暗殺のために動いていたが、彼女のその強さにほれ込み、好意を抱くようになった。
生命力を使う、魔術とは別の体系である影術を得意とする。その中でも、特に暗殺に使われるものを得意とする。
前線でも戦えるが、後方支援が主である。

朔夜
天界に住む『光焔の大妖狐』と呼ばれる狐の妖怪。
かつてはルミナシアをその美貌と魔力で掌握しようとしたが、柳仙に撃退され、気付けば好意を持つようになっていた。
光焔の名の通り、火と光の魔術を得意としており、全力で行使すれば、数日でルミナシア全土が焦土になるとされる。

リュエス・フォルスター
桜花を倒すために魔竜洞で待ち伏せをしていた影術師。
まだまだ未熟な影術師であり、サイファーにはまだまだ及ばないが、自分ではそれが分かっていない。
影術師の中でも、魔物寄りの影術師であり、人間に対しては憎しみの感情を持っている。
14/11/23 01:28更新 / レイガ
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