読切小説
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SOME DAY
昔、騎士になって王国を守るのが夢だった。小さい頃、母親が読み聞かせてくれた絵本に、出てくる騎士がすごくかっこよくて、毎日剣の稽古をした。それから俺は大人になって、騎士になるための学校に通い、見事俺は騎士になった。しかし、実際の騎士は俺の想像とはかけ離れたものだった。

騎士になって1年が経った。俺はまた落胆した。盗賊退治の任務で訪れた村はすでに襲撃に遭ったあとだった。無残な有様を見る限り、生存者はいないだろう。

「あーあ。かわいそうに。こんな田舎にすんでるばっかりに・・」

俺の所属する隊の隊長が言った。そう、騎士たちはこういった小さな村にはいない。国王が自国と、自国と関わりの深い大きな街にしか騎士を派遣しないからだ。

「やはり、遠方の村にも騎士を派遣するべきだ」

俺は心の芯から叫んだ。

「ほかの騎士たちも共感する」

「帰還したら国王に問い合わせるべきです」

「は?」

隊長は表情を歪ませる。

「おいおい、そんなことしたら、国王に楯突いた罰で牢屋行きだぜ。そりゃゴメンだね」

「だからといって、このような悲劇を繰り返していては・・・」

「あのなぁ、マーシー。国王が必要なのは自分に役に立つ人間なんだ。役に立たない人間はいらないんだよ」

「なんてことを言うんだ!」

俺は隊長に食ってかかった。人を人とも思わないその言葉が許せなかった。

「そしてお前もな」


ドスっ

俺の腹部に激しい痛みが走った。

目線を下ろすと、血に染まった刃が鎧を突き破っていた。

「何・・?」

「お前は優秀だが、使えない。あばよ」

同胞が背後から剣で刺していた。

「何故・・・こんなことを・・」
「真面目すぎるんだよ。お前は。正義の味方なら、あの世でやるんだな」

剣を引き抜かれた俺は意識が薄らいでいく中、地に倒れこんだ。

すぐさま撤退していく騎士たち。こんなところでは死にたくなかった。

だが、体はもう動かない。すまない母さん。先にいくよ。

それから・・・


「あれ?まだ人がいるよ」

「え?全員避難させたはずじゃ・・・」

「とにかく助けなきゃ」

「まだ息はある。応急処置をすればどうにか・・」

「あたしは応援呼んでみるね」




俺の第2の人生の幕開けだった


マーシー。年齢21歳。性別男。髪の色は黒。元王国騎士団。
現在黒騎士団所属。
黒騎士団というのは、国王が私有化してしまった騎士団の代わりに、遠方の村を守るため構成された民間組織である。

「うっす。マーシー」

俺は本部の通路で声をかけられる。

「おはよう。シェリー」

金髪の長い髪をなびかせる背の高い女性。彼女はシェリー。俺が初めてここに来たとき、よくしてくれた。それ以来、よく一緒にいる。

「今日は任務?」

「あぁ、魔物狩りの退治だよ」

「ホント?あたしもだよ。最近増えてるみたいだね」

魔物狩りとは魔物に恨みのある人々が集って魔物を片っ端から討伐していく集団である。
逃げる魔物でさえも追い回して討伐するぐらいであるから問題視されている。シェリーの言うとおり、ここ最近活動も活発になってきている。

「俺は、魔物狩り相手は初めてだよ」

「実はあたしも。今まで、熟練のメンバーが向かってたんだけど、人手が足りないみたい」

やはり、魔物狩り退治の任務が増えているからか。
俺とシェリーは集合場所のロビーに集まった。そこにいたのはジム。茶色い髪を短くした青
年。

「うっすジム」
「よっ」
「あ、おはようお二人さん」

爽やかな笑顔でジムは挨拶を返す。

「お、みんなそろったみたいだな」

そこにもうひとり、黒騎士団の体調の一人のガイルが現れる。ということは、今日は4人での任務か。

「じゃあ、任務の概要を説明する。よく聞いてくれ」




目標は魔物狩りの小隊。人数は3人。海に抜ける森に向かうという情報があった。手ごわい魔物も生息しているので気をつけるように、か。

それから間もなく俺たちは出発した。森までにはそんなに危険はない。途中の街に泊まって次の日、早朝に森へ向かう予定だ。

それから難なく、街にたどり着いた。その頃には日が暮れそうになっていた。

「俺は食料調達をしてくる。ほかは、夜まで好きに過ごすといい。では解散」

ガイルは一人、出店へと向かう。

「あたしたちはどうするー?」

「飯食ったら宿で休みたい」

「僕はこの街をちょっと観光したいかな」

性格の差が出たか。流石好青年は好奇心がある。

「じゃあ、三人でご飯食べて、ちょっと街を見て回りましょう」

「俺も行くの・・・?」

俺たちは街の飲食店に向かった。そんなに大きな街ではないがそれなりの施設はあるようで、娯楽もいくつかあった。それに賑やかだ。お使いをする子供、老人の荷物を持つ若者。学校が終わって遊ぶ子供たち。

「そういえば、ジムとはあんまり話をしたことないわよね」

レストランの4人席に座り、俺とジムが並んで座った。

「そうだね。あんまり一緒に組むことがなかったからね」

そういえば俺もないな。ちなみにジムは黒騎士団ないでも噂のイケメンである。

「いろいろ聞かせてよ。ジムの話」

シェリーは興味津々である。ちなみに俺もこうやっていろいろ話すはめになった。

「僕は、王国の貴族だったんだ」

「へぇー、そうなんだ!」

いつもの紳士な態度を見ればなんとなくわかる。

「だけど、俺は貴族の暮らしにだんだん嫌気がさした。貴族以外の人間を見下し、自分たちは特別だって思って生きてる」

「・・・」

シェリーは黙ってジムの話を聞く。

「だから、俺は家出をしたんだ」

「それで、黒騎士団に入ったんだ?」

「うん。黒騎士団に入ると、今まで知らなかったことが目に見えてきて、どれだけ自分が何も知らずに生きてたか思い知らされたよ」

「そっかぁ。自分たちと違う生き方を受け入れられないのは、悲しいよね」

「うん。貴族がもうちょっと市民に歩み寄れればいいんだけど・・・」

食事を終えて、俺たちは街を少し見て回った。

「ここっていい街だね。お互いに支えあって生きてる」

そう。お互い自分の役割を果たすことで、誰かを支えている。なんていい街だろう。騎士のあり方もこうであったらよかった。

そして、俺たちは街を一通り見たあと、宿に戻って眠りについた。


翌朝、早朝に俺たちは出発した。まだ日が登りきっていない、薄暗い中、森へと向かう。

「気をつけろよ。ここからは魔物狩りに接触してもおかしくないからな」

ガイルが警戒を促す。あちらもこの森が目的地。鉢合わせすることもあるだろう。
それに、この森には海辺に生息する魔物もまれに出現するので注意が必要である。

緊迫した空気の中、森の中を進む。


「止まれ」

ガイルが足を止める。

「魔物だ」

その一言に、全員武器を構える。現れたのは、ウルフの群れ。

「殺すな。追い払え」

「了解」

ガイルが一番に飛び出した。彼の武器はハンマー。ウルフの目の前目掛けて振り下ろす。
ウルフたちはひるんで一歩行き下がる。続いてシェリーが矢を放つ。彼女の武器は弓矢。
放った矢はウルフの頭上の木に刺さる。さらに、俺とジムとで左右に展開しているウルフたちを中心に集める。ジムの武器は槍。刃が当たらぬようにウルフをなぎ払う。そして俺の武器は
自分の手足。体術を使う。ウルフを片っ端から投げ飛ばす。そして、俺と、ガイル、ジムはウルフから離れる。

「いくよ」

シェリーはもう一発矢を放つ。それはさっき放った矢に括りつけた袋めがけて飛んでいく。
そして、袋を突き破り、粉末が飛び散る。それを浴びたウルフは一目散に逃げていく。

「ふう。倒さないっていうのは、結構骨が折れるな」
「討伐は任務外だから、仕方ないよ」

パワーをセーブするのも楽ではない。

「ぬるいぬるい・・」

どこからか声がした。その直後、なにやら不快な音がもりに響く。ウルフたちが逃げていった方向である。俺たちはすぐさま駆けつける。そこにはウルフたちの無残な遺体があった。そしてそこにいるのは鎌を持った一人の男。

「魔物を倒すならこのぐらいしないと」

ひどい。ここまでやらなくても。

「ひどい。こんなやり方しなくたって」

「あぁ?何魔物に肩入れしてるの。魔物の味方?」

こいつ、ひねくれてるな。

「魔物の味方する奴も、俺らの的だ。殺してやる」

男は鎌を振りかざし、向かってくる。

「うわっ」

俺はとっさに身を引いた。そうしなければ俺の首はきっと足元に転がっていただろう。
こいつ、殺しにきてる。

「気をつけろ。こいつ、並の実力じゃない」

ガイルは再び警戒を促す。まずジムが挑む。槍をまっすぐ、突き出すが、相手に槍を掴まれ、
蹴り飛ばされる。その間に出来た隙を見逃さず、シェリーは矢を放つ。しかし、それをもあいつは手で掴んだ。

「嘘!?」

だが、それでは終わらない。ガイルが背後からハンマーを振り下ろす。しかし、男はそれを鎌の柄とハンマーの柄を引っ掛けることで受け止める。だがこれで・・・

「動きを封じた」

鎌を両手で持ち、足は地についている。攻撃はできない。正面から攻撃を加えようと俺は拳を構える。

「下がれ、マーシー」

ガイルが叫ぶ。俺はすべてを察し、後方に下がる。ガイルも男から離れた。次の瞬間、男の目の前に大剣が刺さる。

「全く。ひとりでつっぱしったかと思えば、全部片付けやがって。挙げ句の果てに人様に手を出しやがって・・・」

男の仲間と思われる人物が現れる。二人。魔物刈りのメンバーで間違いないだろう。

「帰るぞ。ウルフの群れの殲滅は終わった」

「こいつら、魔物に肩入れしやがる。俺はそんなやつらが許せない」

鎌の男は俺に向かってくる。鎌のリーチは長い。俺がヤツの懐に潜り込めれば勝機はある。

「しねぇぇぇい」

血の気の多いやつだ。やはり、俺の首を狙ってくる。俺は身をかがめ鎌を避けた。
そして拳を男の腹に食らわせる。しかし、男の顔は笑っている。男の手に鎌がない。俺はすぐさま振り向いた。鎌はまっすぐ、俺の後ろにいたシェリーの方へ飛んでいく。

「うわぁ」

シェリーはしゃがみこみ、鎌を避ける。そして鎌はその先にいた生き残りのウルフに直撃した。
男は俺の攻撃を受け、よろめく。

「まだまだ・・・」

男は仕込んであったのか、鎖鎌をとりだし構える。

「マジかよ・・・」

「やめろ。人に対する無益な殺生は御法度だ」

さっきの大剣を背負った男が言う。

「もっとも、そちらに戦意があるのなら話は別だが」

3対4。数ではこちらが勝っているが、大剣の男と、鎌の男はやり手と見える。あまりいい条件ではない。

「我々の任務はいわば君たちの活動の妨害だ。だがそれは失敗した。争う理由はない」

ガイルは武器を収める。

「話のわかる人だ」

隊長はメンバーの安全も確保しなければならない。任務が失敗に終わった以上、戦って得はしない。
こうして、俺たちは無事に森を出た。帰りは街によらずに本部を目指す。俺は森を出る直前に、男に質問をした。そして、その答えに、俺は少なからず共感してしまった。

「何故、あんたらは魔物を目の敵にするんだ」

「理由はひとつ。魔物が憎いからだ。家族を、友人を、恋人を、魔物に殺された。魔物は悪だ」

「そんな・・・一方的すぎる」

「奴らも一方的だった。逃げ惑う人々を容赦なく襲った」

「魔物は悪っていうなら、君らは正義の味方かい?」

「別に、俺たちが正義だとは思わない。むしろ、この世界に正義などない。もし、そんなものがあるのならば、俺の家族は命を落とさなかった」

もし、正義というものがあれば、俺はまだ騎士団にいたかもしれない。正義を掲げて何かをするには難しい時代なのかもしれない。
「魔物狩り・・・厄介なやつらだね」

ジムはため息をついていう。確かに、実力は俺たちでは歯が立たなかった。しかし、それ以上に魔物を悪とみなす思想が厄介だ。

「うん。あいつらの言うこともわかる。この世に正義があったら、黒騎士団だってできなかった」

そう。黒騎士団も魔物狩りもこの時代の被害者なのだ。きっと。

「だからって、あいつらを野放しにはできない」

「いつか、お互いに分かり合えるようになれるといいのにね」

いつか・・・王国も、貴族も、市民も、魔物も分かり合える日が・・・

13/06/17 00:46更新 / あっきー

■作者メッセージ
初投稿ですよろしければどうぞ。昔、連載で書こうかなと思っていた話です。
ヴェスペリアをヒントに、正義とは何だ?と、問いかけるお話です。また、身分に関係なく分かり合えたらいいなっていうのもあります。日本じゃあんまりないけど。タイトルに関しては、マーシーの最後の言葉、「いつか」を英語にしました。

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